お便りいただいたおかげで「ユニバーサルな論説文の読解戦略」を文章化することができました。
私としてもこの二〇二〇年度入試を乗り切るためにまずオンライン講座のコンセプトを明確化しておきたい段階に来ていたので、ちょうど良かったと思います。前回の記事【お便りコーナー】①②、とくに②をよく読んでからこの記事を読んでください。
二〇〇七年度第1問 浅沼圭司『読書について』
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(PDF:前回と同じもの 二〇〇七年度東京大学第1問_浅沼圭司「読書について」0630a)
近代までの芸術論と現代芸術との比較を行っていた文章(二〇〇七年度 浅沼圭司『読書について』)の最終の記事から間が空きましたので、少しおさらいをしていきたいと思います。
当然ながら、これまでの記事を読んでもらったうえでおさらいをするわけなのですが、この文章っていうのは、『読書について』というタイトルのすごく分厚い本の、話題が切り替わる途中の章段から切り取られた文章なんです。【お便りコーナー】②の内容でいくと、分厚い本の議論がゴチャゴチャした核心(学部入試の問題としては難しすぎるので普通は出題されていない)の終わりの部分から、話題が「現代芸術作品」に切り替わり移り変わるその境目の部分。
つまり、
①すでに冒頭からそれ以前に述べられてきた「過去のための理屈」がたっぷり書かれている
そのうえに、
②「現代芸術をどう受け入れていくか」という次の議論の組み立てが始まる
という、秩序と秩序の〈はざま〉の文章、ということになります。
だから、出題されたテキスト全体の構造を分析するという点で見ると後者②を上手に読み取らなければならないんだけれども、形式的にまた真面目に読もうとすればするほど、前者①(ほぼ不要になった前章の論拠=問1の表面的な内容)の読み取りでアタフタさせられてしまう、ということになります。
もしくは凡庸な読みの場合、前者①がなぜ出題されているかも分からず適当に読んで書いて、後者②を別建てで読み、どういう意味で何を歴史的に継承するやら全く適当な問3と問5一二〇字の解答をやらかす、ということが考えられますね。この凡庸な読みの場合、得点的には2割取れるかどうかも不安です。で、悪いんだけど、世の中の読みの水準は、残念なことにこの凡庸な読みの方しか流布していないのです。
二〇〇三年度や二〇一九年度の〈比喩〉に関わる〈比喩〉っていうのも、論理が断絶して象徴性に頼るがゆえにひどく難しいのですが、
私の見立てでは、
[1]こんどは論理はちゃんと通っている文章
で、そのくせ
[2]議論に慣れていない受験生には前年度と同じくらいに混乱して難しい
−−−という条件を満たすこの「二〇〇七年度第1問」が、もっとも出題されやすい・警戒が必要なパターンなのではないかな、と私なりに推測を立てたわけです。
とりあえずいかがでしょうか。いただいたお便りに答えることによって、以上のような説明もだいぶ皆さんの頭にすっと入ってきやすくなったのではないでしょうか。【お便りコーナー】だけで東大第一問と文系第四問を合わせただけの文字数ありましたからね。私がブログ書くのも皆さんが時間割いて読むのもかなりの訓練、やったかいがありましたね。
二〇〇七年のこの文章がなぜ読みにくいのか、だいたいのところでわかってもらったあとは、「そしてその際に何を考えればいいのか」ということになるかと思います。
これについてはもうあれやこれや幾つか説明をしましたが、結局のところは「借りもののex(具体例・引用)が並ぶかぎりは筆者の話題は移り変わっていく」という大原則につきるんじゃないかと思います。つまり、主旨(ディスコース)を初期化する目印(マーカー)として(ex)は存在するということを、定理としてしまって良いのではないかと思います。
『読書について』の後半の具体例ex5、6、8、9、10は「現代芸術作品」について「知覚」に「素材」に「手法」にと、どんどんのめり込んでいってますよね。それは確かに「芸術行為の『普遍化』」なのだけれど、そういう内容を深く読み取るまでもなく「現代芸術をどんどん受け入れている展開である」ということは最初に本文をながめる2、3分で具体例から気がつくはずです。それをかつての「上から規定する近代までの芸術」の具体例ex7とグループ分けしたら、問1問2にどう付き合うべきかは自然と分かるではありませんか。
そう、論説の構造上は問1問2は主旨とはいえないのです。そしてそれを理解したうえで、主旨(現代芸術の論理的な理解)にとって問1問2がどのような関係にあるかを考えてくれれば、おのずと「問1問2は現代芸術との対比や比較で理屈も含めて説明しなければならない」ということが見えてきます。ここが、この二〇〇七年度という難問を解くさいに「無策の人」と君たちをはっきりと分けていく境界線となっていくわけです。
次の記事ではもういちど【お便りコーナー】として、一般的な『入試現代文の解答作成のやり方』いわゆる〝書き方〟について、簡単に触れておきます。だいたいここまでやれば、青木先生の授業とのギャップ調整はできると思うので、もうちょっとおつきあいお願いします。
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