2016年度第1問の続き、さらに劇的に読めるようになるテクニックです。
試行錯誤して膨大な時間を消耗する「論点の整理と論拠の集約」について、どういう方針で最初に何を行うか?についてのお話です。
クリティカルシンキング(批評的な思考)という意味では、筆者が話を組み立てる方向性に対して、情報や主張はどのように配置されて結果的にどういう理屈になっているかを、脚色を加えず、でも無駄や曖昧さは省きつつ、記述説明しなければいけません。
旧世代にはなじみの薄い「課題解決学習型」の出題であるだけで、教育関係者やいわゆる「真面目、従順」な受験生たちにじゅうぶんに大きな混乱を与えているというのに、この年度の文章の場合、前提であるはずの論拠(きわめて排他的な「知性」についての定義)を後出しすることによって、読む側だけでなく筆者自身も話の運びかたについて多少混乱してしまっているところが、解きにくさに拍車を掛けているように思います。
この文章は特に、「筆者がどういう立ち位置で」「議論がどこから始まっているか」が明確には分かりにくい。特に筆者が語る語り口のとおりに意味段落で区切るような伝統的な読み方では、問5百二十字記述では、筆者の皮肉や悪意に気がつかず、「後ろの意味段落」をただ表面的になぞるだけとなってしまっています。国立上位の大学の模範解答には各予備校のプライドが多少なりともかかるところなのに、この年度の解答は各社ともかなりの荒れ模様です。
「どうやって論点を整理して論拠を集約するか」について、明確な方針と具体的な作業が必要なのです。
私にとっても、オンラインの限られた機会で十分に伝わる平易なやり方を解説するために、現状では字数も推敲の手間もかかってしまいもどかしさを感じています。ここでは解答の組み立て、アウトプットに直接的に関わるところである「筆者の立ち位置のつかみかた」「論拠を2行解答のなかに盛り込むさいに気を付けるべきポイント」に割り切って、ある程度お話しできたらと思います。
2016年度第1問 内田 樹「反知性主義者たちの肖像」:
・筆者の立ち位置を確認するタイミングはいつか
・筆者自身の論拠の飛躍にどのように対処すべきか
・省けないはずの論拠をどうコンパクトに読み込んで記述するか
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※前の記事に添付したものと同じPDFです※
【ディスリ文脈の色分け】2016年度東京大学第1問_内田樹「反知性主義者たちの肖像」
【解説】東京大学2016年度第1問_内田樹『反知性主義者たちの肖像』※古い版でごめんなさい
前の記事では、まず混乱無く本文の全体の流れを読み取ることに主眼を設定しました。結果として〝一応の伏線関係にある〟問1と問4そして問5について、論拠の「繋がりの存在を認める」ことによって、合格者平均の水準で読み解くところまで可能になっています。
しかしながら、いったい「どのような論拠の繋がり」が存在するのでしょうか? どうも無茶がありそうな前後半の文章のあいだに、「どこまでの繋がり」が認められると言えるのでしょうか? 「並一通りな答案から脱却すること、上位集団に食い込むこと」はいつの時も重要ですが、上手く解答要素を見定め、スムーズな解答を書くためには、まだまだ工夫が必要といえそうです。
〔ウォーミングアップ〕
復習がてらに、リンクのPDF【ディスリ文脈の色分け】を参照し、イメージトレーニングをしてください。
黄色とライム色と青色のマーカーによって色分けされた、打ち消されあいまいに対比された要素たちを、皆さんならどういう順番で色分け、分析していきますか? exの中のグルーピングの手順のなかで、文章の前後半を通じて出現する対立要素をどこから切り出していけばいいと思いますか?
文系第4問の随筆の解き方まで含めて毎年のようにやっている私自身にとってはこうしたイメージとイメージのあいだの連鎖関係を見つけていくことは手慣れた作業になっていますが、去年まで私の授業を受けている皆さんであっても、ディスリ構文の処理まで同時にこなすには「時間的な最適化」をする余地があると思います。高3になってようやく付いてくる論理力を、スピードを伴った実戦的なものにするトレーニングをするのは、まさに今しかありません。ヒントは単純、「迷路は出口から解く」です。結論近くの対立する二項の、特に筆者に指示されている側から注目すれば良いわけですね。それでもなお時間がかかるので、迷いなく作業としてやれるところまで鍛錬するのです。このPDFを使って、その手順と所要時間を自分なりに計測、検討し、訓練してください。
〔筆者/作者の立ち位置と問題意識について〕
さて、今回の記事における作業の本題の一番目は、前回紹介しそびれた「筆者/作者の立ち位置」の把握です。
結論から言うと、筆者は「『反知性主義』を憂慮し、集合的叡智(現実でいうと学会、研究グループ)に所属する知識人」です。それが「何となく分かる」「そんな気がしてた」ではなくて、筆者の立ち位置を「どの段階でどう察知して」「どのようにして批評的思考の中に導入するか」という解法探求への明確な意識が、主体的な学びと議論のために必要となります。
前回の記事で説明すべきだったポイント、それは「筆者の立ち位置はexのグルーピングの段階で十分に『分かる』ので、exの検証の段階で目につく『お題』やNow、We、Mustなどの『マーカー』を探しておく」ということです。以下、実際に見てみましょう。
PDF【ディスリ文脈の色分け】を再び参照してください。具体例・引用のex1〜4(緑と青色、二つのグループの点線の囲み)の前後に、二重線による四角の囲みを施しているところが見えますでしょうか。二重線で囲っているこの部分が、具体例や引用を取り沙汰する〝場合〟〝目的〟〝主体〟を示しており、それは割と何度も具体例の前後で言及されているのが分かるかと思います。
『お題を見つける』ためにすべきこと、それは任意のexの前後で、できるならば主要な対立をする二系統のexそれぞれの前後で、解決すべき課題を語る語句を見つけることです。それは一般には一か所見つかれば十分(普通の文章ではお題は一つだから)、難しい文章であっても『対立する二者それぞれにとってのお題の意義・側面』が見つかれば十分でしょう。
単純な話、『チャーシューはどうやったらジューシーに仕上がるか』とか、『我が社のドローン開発を加速するにはいま何が必要か』とか、『取り組むお題』が見えしまえば、『お題解決学習』なんてバカバカしいくらいに簡単に筋道が把握できるようになります。むしろ、「入試に出題される文章は、どうして『解決すべき課題』が把握しにくいのか?」という問いかけのほうが、入試本番でどういった文章を使って「課題解決力」を問うてくるかを予測するためには重要なようにも思います。
旧世代あるあるとしては、「全人類のために」「日本社会の未来のために」「21世紀に住む我々は」みたいな広すぎる読者層の想定や大きすぎる問題意識の設定が、出題される文章における具体的で小さな目標設定と実用的な解の求め方に対して全くつりあっていない、という場合が多いと思いますが、研究費が驚くほど削られてすでに国際化と産学官民の協業が急速に進んでいる大学のなかでは、課題解決の迷走・トラブルの発生の現場で、今まさに大小いろいろなケースが実際に起こっていると考えられます。次にこうした傾向で出題されるときは、この年度のように「筆者の論じかたが良くない」くらいでは済まないでしょうから、心しておくべきです。
皆さんはこの問いかけにどのように答えますか? どういう目くらましがありそうだと思いますか? 通学途中にでも、各自アタマをひねってみてください。
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