解答編②(問4、問5百二十字記述)で、この年度の解説の最終回です。これは二〇一八年度の第一問(野家啓一『歴史を哲学する』)の類題でもあるので、二〇一八年度の演習をやる(授業で必ず取り扱うことと思います)際には、必ず参照しておいてくださいね。
設問をセットで解ける「大人の事情」が問3と問4の間にありましたので、残されたポイントはPBL型文章における一二〇字記述の書き方についてです。
課題解決型の出題であっても、入試の水準の文章ではディベートと言い切れるほどには単純な二項対立にはなってくれないので丁寧に解答するべきなのですが、巷の模範解答ではあいまいな貶しの構文で字数を稼いで逃げるダメな大人たちが多いので、約四行の記述解答の説明を改めてしておこうと思います。
2011年度第1問 桑子敏雄「風景の中の環境哲学」④:
・整序した論理展開のもとで、設定課題課題と論敵を意識して、文脈ごとに書き分ける
[問4]「河川の空間は、時間の経過とともに履歴を積み上げていく」(傍線部エ)とあるが、どういうことか、説明せよ。
[問5]「風景こそ自己と世界、自己と他者が出会う場である」(傍線部オ)とはどういうことか、本文全体の論旨を踏まえた上で、一○○字以上一二〇字以内で説明せよ。(句読点も一字として数える。)
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︙︙以上のように、この年の解答速報は先行するK塾の当日速報の頭のキレが際立っていたことや、そもそも都市空間デザインという文学や哲学よりもまだ分かりやすいテーマであったことから、各社の模範解答の全体の水準が非常に高い年となっていますが、S社やT社の解答の傾向は例年「なぜか主語を大きく、話題を一般化して終わりたがる」ので気をつけてください。筆者の問題意識を離れて人類や日本全体の何かを語ろうとするのは、日本語による活字マスメディアがまだ日本社会そのものだと考えられてきた頃の古い信念に過ぎません。政治は劣化し、マスメディアは飼い馴らされ、個々人は広大なネット空間で小さい興味の範囲だけに思考を囲い込まれている。PBL型の出題で令和の時代が問題になるとき、S台の好きなとらえ方の真逆=小さい話題の限定された範囲でいいから新しい発想で一点突破するという方向性の文章が出題される可能性は高いのです。
PBL的出題が多くなってから、その反動なのかもしれませんが河合オープンや駿台実戦の現代文の内容は逆に全般的な科学文明史、広範な芸術理論からの出題が多くなっていますので、直近の第2回オープンも第4問随筆を含めてそうした「漠然とした学術的内容」である可能性が十分にあります。しかしながら東大がテーマ理解から漠然と文章を要約するような読み方を二次試験で求めたことは過去に一度もないのです。もしそうした出題のときには、exのグルーピングとディスり構文の末端の確認で乗り切ってください。
この講座特有の読解戦略を覚えれば、2回目は倍速で書けます。4回目までは4倍速で、その頃には実用のスピードで書けるようになっています。戦略の存在意義を、過去問の答案を書いて演習で体感してください。
それではまた。
問6:a 跳 b 断片 c 抑圧 d 阻害・阻碍