③ロジカルシンキング
複数の論拠の整序を行う理由
これは論理的読解力そのものの議論になるので、ロジカルシンキングに関する他の項目記事と比べれば、比較的簡単なTips的記事にならざるを得ないと思います。解くなかで感じてもらいたい、論拠の単純化の大切さについての話を簡潔にさせてください。
実際に実演している代表的な記事は以下のとおりです(リンク先には説明が冗長なものもありますので、今回は、まずこの記事で説明する方法論を読んでから参照してください):
東大実戦過去問 篠原雅武『空間について』
【実践問題PDF】力試し 東大実戦 篠原雅武『空間について』
【実践問題解説】いきなり解説配信 読んで!! 篠原雅武『空間について』
※〝都市の豊かさ〟と〝周縁〟という筆者の定義についての概念的な捉え方をどうすべきかについての補足(「図形的な中心――周縁」ではないことが後半の具体例引用によって明らかになる)が、文章後半になってようやく現れて意味が分かってくるので、忍耐強く読んでまとめる必要がある。
二〇一二年度第1問 河野哲也『意識は実在しない』
【プチ解説】二〇一二年度第1問「意識は実在しない」について
※〝資源の摂取〟という近代の物心二元論的な捉え方が、自然環境と人間社会の二つに向けられているのは一見よくある近代文明論のパターンだが、何を資源として分解しているのかについて注意して読み取らないと、二つのテーマを相同的に説明する本文の述べ方をきちんと記述解答に落とし込むことができないので要注意。〝書かせて点差をつけ、落とす〟パターンの良問と言える。
二〇〇七年度第1問 浅沼圭司『読書について』
07年度『読書について』を〈読まないタケトミ現代文〉
07年度『読書について』全体読解 理屈っぽいと何が困るのか
07年度『読書について』超難問 前回までのおさらい(重要)
演習2 07年度『読書について』論旨を読み解くチート技のパズルこれって要するに過去3年の出題傾向じゃないの?続演習2 二〇〇七年度「読書について」①ゲームチェンジャーの登場をどう書くか
※もっとも論旨をつかみにくい年度であると思われる。本文前半の段階で、〝芸術におけるジャンル〟が芸術作品に対してどのように機能するかを見て取ったうえで、後半の具体例の推移から作者のじっさい携わる現代美術においてその機能がどう生きるのかを前提として据え直しながら考えなければならない。具体例から筆者の興味関心を間接的に読み取らないかぎりは筆者の問題意識を掴み取るすべが見当たらないところが、学術論文の実態を映しながらも大変読みにくい論説文であると思われる。
二〇一九年度 お茶の水女子大学 第1問『現代思想講義』
【実践問題】①我思う、ゆえに女子大に在り!?〈飛躍する言葉〉の必要性
【実践問題】②〝自由記述〟長文記述が複数ある大問にひそむ〝大人の事情〟
【実践問題】③公開採点(前編)〝自我の本質はbでもないしAでもない〟本文の論拠整序なしで解答は不可能※続き書けてません
※東京大学の出題水準を超えた、難易度の高い文章。大きく二つのことについて交互に論じているため、どちらの論理についてどこで述べ直しているのかをたどるのがかなり難しい。しかも〝自我の本質はbでもないしAでもない〟という否定の文脈が、要素Aと要素Bを否定している否定のあり方が異なる(要素Bについては下位分類bとして扱うことへの否定であって、要素B自体の否定ではないことを示す必要があるのが、哲学的な知識と同時にカテゴリー的な論理的考察力を要求する良問だと言える。ただし、小論文用に結論に瑕疵のある文章が選ばれており非常に読後感が悪い。東大の問題はまだまだ易しいほうなのだ)
二〇〇九年度第1問 原 研哉『白』
①一見簡単な「評論」を珍しく出題した大学の意図とは
②【論拠の構成の総括】テーマに関わる論理展開の分岐
③放棄された結論――勘所は中盤にあり
※最終段落の語り口はたいへん威勢が良いものの、中盤の論理展開の深さを筆者が投げ出しているたいへん整わない文章。中盤の読解について問う設問が出たとしたらかなり難しい大問に化けた可能性がある。この辺も二〇一九年度お茶大の問題と似て、東大の問題はちゃんと手加減してもらっていることを痛感させられるヒヤッとする局所的な読み取りの難しさがある。
この部分に関しては最も扱った記事の本数が多く、活字化するのに最も苦しんでこだわってきたと言わざるをえないのが正直なところです。対面授業でやれれば別に問題はないのだけれども、テキストでいくら文字を重ねたとしても伝わる気がしないので、右の参照記事も途中でやめてしまった(即効性の高い別の演習記事を優先した)ものも多く、読むさいには気をつけてもらいたいものもあります。
「戦略まとめ」記事としての結論を先にいうと、伏線を回収しながらそれぞれの論拠をよりシンプルに、シンプルに集約していくことがいかに重要かということになります。とりあえずそれを理解してもらいたいです。
論理的な補足・新しい観点の提示のまとめかたという意味では、ディスり構文の集約のしかたとも通じるところがあるので、別項目東京大学的紆余曲折文章の抄訳問題も併せて参照してください。
そのうえで、
類似の論拠は多少述べかたを揃えて整えながらまとめないと、
①その論拠にさらに関わってくる複数の要素(主語・目的語要素などが細かく抱え込んだ事情・背景など)を拾い集めることができなくなる
②論拠の連鎖(いわゆる論理展開)を分岐させる論拠の存在とその射程範囲を見定めることが困難になる
などが問題になってくると思います。
この記事では、右の①・②の大きく二つを挙げておこうと思いますが、本試験のそれぞれの年度によって、論拠の入り組み方はさまざまに異なってきます。東京大学の現代文第1問、および文系第4問では、途中の小問でこうした論理の交通整理が問われることが多いので、言われるまでもないと感じる人も多いことでしょう。
問題は、文章のテーマによっては筆者が全く別のモノとして扱っている複数の題材に同じロジックが使われることもあるし、同じロジックが使えることによって複数のモノを同じ題材として扱おうとしていることもあるというところにあります。残念ながら、これについては筆者の論じ方しだいなので、解答者側ではどうにも防ぎようがありません。面倒くさいと多くの人が感じるところでもあるし、テーマ学習的な知識から当て推量で読み解くとまったくテキストと異なった読解・記述解答になってしまう可能性もあるでしょう。実際、S台青本の解答例の多くが論旨と異なった決め打ちの解答をしており、既存の知識で生半可に齧り読みをすることの危険性をよく教えてくれます。
これらに関しては、基礎的な読み取りと書き分けを授業ではなるべく丁寧に行うように心がけています。既卒生NYG32期生の授業では、二〇一六年度第4問 堀江敏幸『青空の中和のあとに』の問2、問3(〝青〟の区別という各論から伏線回収しつつ本線の主と従の関係を確認し直す)、ピアノと指の骨の話(一九九六年度第5問 三善晃『指の骨に宿る人間の記憶』)あたりで細かく記述訓練を行いました。二〇〇三年度第1問「霊の目」についての民俗学的考察の文章も、こうした細かい論拠の整理という点でたいへん優れた出題であると言ってよいと思います。
過去問演習のなかで筆者にケースバイケースで併せていくしかない部分なので、このくらいで筆を置きたいと思います。ブログを運営する私の希望からすれば、遠隔動画授業でこうした細かい説明がわかりやすく実演できるようになるようになりたいと考えて、日々技術的なレベルアップに努めていますが、私一人の実力と作業量では、すぐに実現できるものでもないのです。今すぐ皆さんの力になれないのを申し訳なく思いますが、「戦略まとめ」の別項目の内容を読んでもらったうえで過去記事の演習を自学自習してもらえたらうれしいです。