【プチ解説】2012年度第1問「意識は実在しない」について

 
 おそらく今学期に理系も授業でやっているであろう2012年第1問「意識は実在しない」について、この6月考査前の学習を通じてしっかり仕上げてもらいたいことについてコメントしておきたいと思います。

「2012年第1問『意識は実在しない』」:

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【解説PDF】2012年度 東京大学第1問 河野哲也「意識は実在しない」

 さて、多くの学校さんでは「科学技術文明批判」と雑に括りますが、この文章も「比喩」による論理的な飛躍、跳躍によって、環境破壊に対する批判が政治哲学上の批判にまで延長されており、文章の展開自体に、テーマ学習ではカバーできない筆者なりの独自性があります。これは君たちも同日受験した昨春2019年度の「レトリック〈はざま〉の曖昧さや展開の強引さ」と非常に似ていますね。

 東大の先生が前期教養学部に入る前の皆さんに現代文で求めているものは、論文を読み、議論の流れをたどっていく言語の力や論理力であって、現社や倫理の専門知識ではありません。知識は本人がきちんと蓄えて築き上げていけば良いものであり、入学の段階でその専門性があるに越したことはないのですが、高校までに先生達によってお仕着せられたまま圧縮され間引かれ絡みついたままの知識では、かえって大学で「先生や先輩とともに学ぶ」ことの邪魔になることが多くあります。

 だから筆者がどう話を進めているかに注意して、きちんとそれを解答の中で指摘することが、採点要領に即した部分点を勝ち取るうえでも、目の前の文章や論者の筋道と自分自身の論理との違いに気付く力を鍛えるうえでも、非常に重要になってくるのだと私は思います。じっさい出題されている文章はそのジャンルテーマの「大家(たいか)」「主流派」の人の文章ではないことの方が多いので、これから授業を通じて積んでいくたくさんの演習の内容を〝よく分からないからとにかく解答を頭に叩き込んでいく〟状況に陥らないように十分に注意をしてください。

 私がこれからできることは限られていますが、論理展開に冷静な分析力を発揮するためのテクニックは、すでに君たちと一緒に学習済みです。本試験の水準の難解さを乗り越える練習を、もう少しタケトミに付き合って積んでくれたら、ここで述べている「記述解答の本文に対する忠実さ」を得点できる水準でマスターすることができます。がんばりましょう。

【ポイント】

・典型的な「disり構文は2度来る、3度来る」の形式です。

 1段落へのdisり補足

  (2段落=3段落後半(発想、思想的背景))   ※概論

    ‖ 

 12段落へのdisり補足

  (13段落後半+14段落)    ※政治哲学の分野

    ‖ 

 17段落へのdisり補足

   (18、19段落)     ※ふたたび概論まとめ

 

・ただし、そこに本試験特有の理屈っぽさがしっかりあるので、論拠を書き漏らさぬように。

 

・disり再来までの間(4〜12段落※近代科学の相対化についての議論)がだいぶ離れており、そこをかつての東大っぽい読み飛ばし(コ系指示語まとめ)で、必要な論拠をちゃんと拾いながら要領よくスピード感を持って読まねばならない。

 2000年度以降現行の理系は大問3つ、文系大問4つの設問難易度の構成では、「のだ・なのだ」と「コ系指示語」による教科書的な説明の文体は時間を掛ける価値の少ない「序の口、易しい部分」の扱いとなっており、ためらわずどんどん読むようにしてください。

 

レトリック:10段落の極論(R1〈二元論のもとでは自然賛美も人間賛美〉広い意味ではレトリックです)や11段落の比喩(R2〈自然を噛み砕いて栄養として摂取〉)が、disりの終着点である結論部(18、19段落の概論まとめ)にまさに「本文テーマに直結するレトリック」の法則性を発揮して繋がっていることに注意する

【設問のグルーピング】

・問1、4、5が〈物心二元論=R2(個性ある自然・生態系を、栄養=手段や資源に還元)〉についての設問になっていて、問1がその「定義」、問4がその「発展的な帰結(社会にも及ぼす悪影響)」、問5がその「全体的なまとめ(自然科学の及ぼした「環境汚染」と弱者無視の社会問題とが同根であるということ)」を問うているので、解答要素をきちんとセットで洗い出して、無駄なくもれなく論点明確に記述すること。

 

・問2、3がレトリックの問題で、下手をすると場当たり的な比喩の置き換え説明になってしまう。トリックはテーマに直結だということを考えて、問1、4、5と同じくらいきちんとした本文中の解答要素で説明をすること。

 この文章はなるべく丁寧に演習してもらいたいです。現状のみなさんの水準でいくと、私ならばみっちりやるようにしつこくみんなに求めているところでしょう。

 (この教材を1、2月にやろうかとも思ったのですが、高2末になるべくみんなにレベルアップしてもらいたかったので、テーマも論じ方も類似している短めの文章(1986年度 合理性という〈囚衣〉)をやりました)

 この年度は、動画収録しても良い教材ですし、今後時間が取れるところで丁寧に書く練習の機会を取ってもよい設問としての素性の良さも持っていますが、考査学習というみなさんへの実利を優先して、とりあえず投稿しておきます。以前じっさいに自分でも模範解答と採点基準まで作っていましたので、解答も含めてPDFにしています。
【解説PDF】2012年度 東京大学第1問 河野哲也「意識は実在しない」

 最初に述べた「本文の論理の筋道に即した記述」という点では、予備校が速報として出している120字記述解答はかなりの割合で本文の論理構成から逸脱した「勝手な」解答になってしまっていますので、PDFのシートをよく確認して〝意味の『実用・実利的な抽出・搾取』で満足しない〟〝この本文の『個性・特殊性』を無視しない〟ような記述説明を目指してください。まさに本文の中で、筆者の河野さんが述べている内容ですが、このあたりの繊細な読み取りは、実に上手く出来てきている人が多く出ているのを私は確認しています。

 そうした意味で、君たちは本当に素地がしっかりしてきたと思います。時宜を逃さず、しっかり勉強するのですよ。がんばってくださいね。

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