【プチ解説】2013年度京大「ブリューゲルへの旅」について

 続いて、京都大学2013年「ブリューゲルへの旅」について、この6月考査前の学習を通じてしっかり仕上げてもらいたいことについてコメントしておきたいと思います。

「2013年京都大学第1問『ブリューゲルへの旅』」:
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【解説】2013年京都大学第1問 中野孝次『ブリューゲルへの旅』
河合塾解答速報(2013年度京大「ブリューゲルへの旅」)
東進ブリューゲル解答

 さらに2013年「ブリューゲルへの旅」についてコメントします。

 これは京都の問題なのですが、京都大学らしくない展開の文章:小出しで解説を述べていく分かり易さ重視の文章が出題されています。

 本文の前半はexの紹介とそれによる話題のグループ分け、そして後半ではその中で絡み合う複数の論拠について説明がなされており、それを親切な出題によって受験生に対して徐々に解説させていく形式の設問となっています。

 昨年度の授業の中でも述べたとおり、入り組んだ理屈を読み解く力を問うのは、今年の東大で狙われるポイントだと思います。そしてその解明つまりロジカルシンキングのためには、グルーピングという飛び道具、――すなわち引用元の資料や修辞技法の意図について、構成や関連性を客観的に眺めながら文章の向かう先を占うという冷静な読み方――は、むしろ「学術的な思考の上で当然持っているはずの技術」であるはずです。これはSSHやSGHの発表や議論を思い出せば、もう皆さんにとってもよく実感できる事実ではないでしょうか。

 ですからここで「京都の過去問だから」みたいな棚上げはしないで、「読解、分析」と「記述、展開」の両方をきっちり練習してください。

「2013年度『ブリューゲルへの旅』」:

【ex間、もしくはレトリック間の*関係性の洗い出し】

 「筆者のダメな『西洋』幻想」と「ブリューゲルやシェイクスピアの精神世界の普遍性」との対比を、具体例やレトリックの相互関係から明確に図式化していくことが重要。(* 昨春第1問「はざま」の話や、「霊の目」など00年代に頻出した傾向)

 
ex1「10年前NYの美術館で見たブリューゲルの麦刈りの絵」は、

||  R0〈私の40年の人生に冷水を浴びせるように〉作用した

||     ||

||  ex4、6(19歳から非現実的な文学や革命思想に没頭

||

ex‘1における論拠の追加

描かれたものの真実性が芸術の価値や用を決める」

つまり

「文学自体が、書いた内容の真実味によって価値を与えられる

=ex4、6の非現実的文学に自律的な価値は存在しない」かも

しかも、ブリューゲルの正しさをわたしは実感している ∵

  • ex2(19歳の勤労動員で麦刈りした時の生命の充実は、ex1ブリューゲルの描く「麦刈りの絵」が描き出すとおりのものであった)
  • ex3(10年前のニューヨークの駐車場で、憧れてきた西欧市民階級の男の現実の神技的労働〉には、現実であるにも関わらずex1の描く「麦刈り」のような生命の充実感はなく、ゲームのような空々しさがあるばかり)
  • ex3’※2回目(駐車場の男のゲームめいた空しい現実に、言葉や絵画は第二の現実:生命や存在理由を与えてくれないと思っていた)

――そこで、ex1「ブリューゲルの絵」に出会った

   ≒

R1〈シェイクスピアの文学世界のように〉

「民衆の生存の実相が、これぞ真実として見極められ、個体でありながら個を超えた普遍的な精髄としてR2〈岩塊や樹木、自然物と同じように〉鮮やかに画面や文章世界の中に”再創造”される

現実の模写=写生的リアリズムではなくて(※disり構文)、「ex4、6:暗い観念世界で『非』現実的に」個々人の生をとらえるというのでもなくて

実際はex5のように「ぎりぎりの実存(ドイツ語 existenz)しかない」かもしれない個々の生について(兵営で受けた暴力のさいの自己の生の堪え難い軽さ)、ex1「ブリューゲルの絵」のように作品の「言葉や形象や色彩や音の世界」が、現実に対して「幸福な関係を生み出す」

つまり

作者自身の精神や思想によって作品世界と生の実相が統一される

――そういう表現の新しいあり方によって、10年前当時の私は、それまでの40年の人生R0〈冷水を浴びせられた〉のであった。

 大雑把ではありますが、倍率3倍弱の競争を勝ち残るための解説としては、以上で十分かと思います。戦時中の兵営での非道な扱いにも、憧れた西欧近代社会の現実にも、そこで没頭した非現実的文学にも救われることのなかった筆者の人生が、ブリューゲルやシェイクスピア作品の「描かれた世界の中で初めて肯定される」というあらすじですね。

 このように、引用だけでなく「回想シーン」という意味でもexが広範囲に関連し合うようなこの文章の読みとりに関しては、具体例やレトリック間のグルーピングによる時系列や筆者の固定観念などの整理が絶対的な力の差を決定します。意味段落(そもそも意味段落というとらえ方自体が私にはよく分かりませんが)ごとに無策に区切って自分勝手な解釈をそのつど差し挟んでいたら、大学の学部生にも噴飯物のどうしようもない勘違いの解答になってしまうでしょう。

 先のメーリングリストで言及したとおり、この過去問は、一般的な予備校各社の担当者の水準ではかなりの可能性で誤読をしてしまう難易度だと言えます。単純に言えば、ブリューゲルは作品世界の創造主・神様として、自然の実在も本当は消しカスみたいな人間の存在全部ひっくるめて、〝作品世界というパラレルワールドの中の普遍性〟のなかに配置し直し関係を再定義する、ということです。現実世界よりも人間が肯定され、現実世界よりも神様に見つめてもらえる幸せな普遍性に支えられた存在として生きていける、そんな絵の中の世界を構築するということです。

 断片的ではありますが、河合塾と東進の解答があったので、PDFとして添付しました。
【解説】2013年京都大学第1問 中野孝次『ブリューゲルへの旅』
河合塾解答速報(2013年度京大「ブリューゲルへの旅」)
東進ブリューゲル解答

 特に文系の人は第四問随筆で出題される可能性が高くありますので、この内容を参照したうえで、「筆者の求める表現世界の機微をとらえるにはどうしたら良いのか」をいろいろ考えてもらいたいと思います。K塾の解答もT進の解答も、情報という点では当たらずとも遠からずではありますが、ブリューゲルの絵の中の世界現実の自然の存在との関わりを論理的に述べることができておらず、問3あたりからいい加減な理屈になっています。

 K塾:問2 主語部分の内容が違う、 問3 比較対象が「現実の自然」に限定されていて、自然と賃労働の対比の捏造が痛々しい、 問4 前半の仮定が大間違い、 問5 普遍性と個々の生との関わりを「…だが、それと同時に」と話しをあえて断ち切ることではぐらかしている 

 T進:問3 非現実文学と比較対照する相手を純粋に「現実の自然」と限定してしまってはいけない 問5 「つつ」で並列させてはいけない要素をつないでしまっている、「さらには」で追加するように導かれる要素ではない。総じてブツ切りに分析してしまった理解を統合することができていない。
 

 大手の予備校は、医学部や理系に対する対策、もしくは文系私立の対策がメインとなってしまい、論理的な文系領域の思考が疎かになっているところもあるのかもしれません。けれども、些細なことに見えるかもしれない「要素と要素の関わり方の説明の違い・あいまいさ」のなかに、「ちゃんと正しく読んでいるか」「根拠を持って関連付けられているか」という意味での圧倒的な読みのレベルの差が現れます。私はその辺の読み取りかたが受験生のころには自覚的でなかったし、教わるチャンスや知る努力を手にしませんでした。教養課程に入って半年一年モヤモヤしたら、自分がやりたいレベルで活躍することは正直難しいことになると思うのです。他教科他科目をしっかり上げていくことも要求されていますが、肌感覚だけででも感じてもらえたら、今後の展開が変わってくると思います。

 ということで、スケジュール上先行することになる第1回東大オープンの方は、芸術論文化論が少し難しくなると業者自体が対応出来なくなる傾向があります。東文クラスの皆さんには解答解説採点基準などでそのへんを差し引いたうえで、自分たちだけは受験当日までにきちんと読めるようになる、論理力をきちんと鍛えていくことを目指して、冷静に訓練を積んで欲しいなと思います。

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