読解と記述解答の基本戦略が定式化されて、ようやく私の授業の行き当たりばったりの印象が払拭できた、というところでしょうか。こういう解説をもっと早くやれればよかったですね。
まぁ、西大和にいる間はそれまでと比べて法外に忙しくて(どうも奈良の県民性労働者に対する考え方のようですが)、家庭のバックアップがなくなれば早晩破綻してしまう感じの雑然とした働き方だったので、定式化どころの状況ではなかったのです。また、そうした環境ではどうしても「ずるい方に・何もしない方に定式化する」のが流行ってしまいますね。「国語じゃどうせ差はつかない」「書いてあることだけ書けば点数取れる」といったウンザリ来るような俗説と精神論で、これでどうやって高3の重要な時期に賢くなれというのか。
皆さんには少しでもやった分は賢くなってもらいたい。というわけで、基幹教材である07年度本試験の、中盤以降の戦略について解説を始めます。
2007年度『読書について』一本の論拠がつなぐ混迷の論旨 :
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定式化の作業があるていど見えてくると、察しのいい人のなかには「文章って図形的に解けるのではないか」と思う人も出てくるかと思います。18歳当時の私なんかよりべらぼうに賢い人たちが君たちの学年には結構いて、当時の私より得点が良い人は学年の中にたくさんいる。
それをあてにして、「東大現代文で出題される争点」を簡潔に説明すると、東京大学が求めている文章読解力とは、「筆者が論理的な説明を押し通すさいの〝困難〟を、説明のプロセスを押えながらありのままに説明する実力」ということができるのではないかと思います。
そしてこれは、おそろしいことにある程度図式化、記号化が可能であると私は考えます。よろしいですか、この〝困難〟は、筆者が文章を組み立てているさいに苦しんでいる〝筆者にとっての困難〟です。談話(論説)の構造を分析するという抽象化の手法を知っている読者は、少なくともこんがらがった言語の海の中で溺れている必要はないのです。
2019年度「科学と非科学のはざまで」については、すでに例にとっておおまかな構造分析をしていますので、過去3ヶ年の論説文の分析を並べてみると、次のようになります。
2017年度 伊藤徹『芸術家たちの精神史』
−−−冒頭の論理構成(それ自体難解かつ〈r〉を含む)が、中盤の話題の展開を受けて、終盤の〈r〉で再召喚され深い意味で再展開する。
(百二十字問題):後半の議論の多重性の説明を、〈r〉の持つ意味の広がりと冒頭にしかない論拠を踏まえさせることで気づかせ説明させる。
2018年度 野家啓一『歴史を哲学する』
−−−歴史学の捉え方について、文章前半で述べる他の学問の論理構成と相同だと見なして、論理の継承のもとに後半の歴史についての議論が展開する。
(百二十字問題):論理展開の相似性を基盤として、歴史に対する一般的偏見に対する反論を論理的に受験生に説明させる。
2019年度 中屋敷均『科学と非科学のはざまで』
−−−いったん混乱し中断された前半部の議論のなかの論拠を、後半部に継承された〈r〉を目印に読み返して明確な形に再構成させる。
(百二十字問題):前後半の議論から二つの〈福音〉の内容と相互関係を確認させる。二つ目の福音〈はざま〉の正体を特定できなければ詰み。
過去十〜十二年くらいは第1問で〈r〉を読み解く力が求められることはあまりありませんでしたが、このように2017年度には微かに予兆があったので、昨年度のクラスルームでは夏の時点から対策を打ちました。過去問の傾向と対策はもっと大きなスパンで振り返らないと意味がないのでまた別の記事にしますけど、チート技による記号化、抽象化を経て概要を説明すると、標準的な模範解答を作るためにすべきことはそこまで莫大ではないということに気がつくかと思います。
そして過去3年に共通するのは、とにかく論拠を自分で構成して記述させようとする出題のアプローチです。手近なところでは論じられていない論拠を探し当てて、それからそれを自分の意識と度胸と言語力で組み立てさせています。私は2019年度が〈r〉のせいで〝文学的に〟難解になった反動から、純粋に論理的な読み取りの意味でちょっと読みにくいような文章を出しつつ、自分で論拠を構成させる問題がつぎの2020年度では出題されるのではないかと踏んでいるのです。
この傾向と対策が的中するかどうかは正直わかりませんが、2007年度を同じように分析してみると、
2007年度 浅沼圭司『読書について』
−−−すでに仕上がった冒頭の(過去の芸術)についての論理構成から、後半部へ延長される議論(現代芸術)に踏襲される論拠を見抜かせる。
(百二十字問題):後半の本文主旨に合わせて前半の二番手の論拠(ジャンルの機能)の関わりを別物(主役)へと再解釈させ、その新しい観点で芸術を新旧問わず包括的に語らせる。
どうでしょうか。まだオンライン演習のチャンスはあると思っていますので、この教材だけで当てに行っているわけでもないのですが、「論理的に賢い受験生にはまあまあ読める(他の無策の人にはたぶん読めない)」「論理構成の引き写しそのままでは120字の記述にはさせない(要約で済むと思っている予備校各社涙目)が、自分の力で読めている受験生には割とシンプルに論述できる」という点では、おそらく実際に出題される難易度に肉薄しているのではないかと思います。
談話分析のチート技のなかで、どれか一つが突破口になってかろうじて前後半を読み通せる難易度−−−これが本試験第1問の全体的な傾向です。東京大学自身としては、何らかのかたちで読み通せる言語的な論理力の持ち主を求めているのだと思いますが、構造分析できる目で語ってしまえば「文章が難解」なのではなくて、本文の「パーツ構成が心もとない」文章が出題されているというふうに説明することができそうに思います。
御託が長くなって申し訳ないのですが、この時期がほんとに勝負なんでね。何となくでも理解が進んでくれたら、授業の演習や模試対策も価値がぐっと高まってきますよ。各自やることは多いと思いますが、はりきっていきましょう。
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