随筆2 【プチ解説】2014年度「馬の歯」① 漠然とした引用 exの囲み方に慣れる

 「本試験の文系第4問」(随筆)の対策です。

 令和になって初めての出題で、第1問には最近の傾向であるロジカルシンキング系の出題がなされる可能性が高まっているぶん、かえって文系第4問は一見すると曖昧もしくは一見非論理的な文章が出題される可能性があります(同時に第3問は政治を扱った日本漢文または漢詩文が出題される可能性も高いでしょう)。文科の受験をする人たちにとっては、「第1問と第4問それぞれの文体の差に慣れる」ということ自体が試練になっていくかもしれません。

 とは言え、非論理的な文章のなかの内容のうえでの連関、伏線の回収のテクニックについては高校1年の間からやっているので、「模試の随筆」はもう無視して、本試験への調整だけを外さずにやっていきたいと思います。

 蜂飼 耳(はちかい みみ:詩人、編集者 女性)という方の文章です。

2014年度第4問 蜂飼 耳「馬の歯」:
 ・漠然とした随想で明確な読み取りを目指す
 ・exの囲みかたのスケールを調整する

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 昨年度の是枝裕和「ヌガー」の読み取りについては、2月以降いくらかの混乱があったかもしれません。ですが、あえて蒸し返さないことにします。

 第4問の予備校解答速報をもう何年とウォッチしてしてきていますが、エピソード(ex)を跨げないどうしようもない解答が予備校に多いのは毎年のことです。その読解力では即応模試で類似の随筆の問題を作れるわけもなく、オープンや実戦の対応をしてもいっこうに本試験の対応にならないという不毛に付き合うこともできませんので、淡々と「本試験の随筆の典型問題」をやるしかありません。

 授業の方で京都大学の「ブリューゲルへの旅」を演習済みかと思いますが、東大の随筆は総じてあそこまで難しくないので安心してください。ただし、素材文の選定の段階で読むさいに多少の番狂わせを演出してくることだけ、心しておいてください

 そのうえで、受かりたいならば半分(小問2つ)は取りたいところです。問題なくできますから、しっかり取り組みましょう。

 今回のこの文章は、「理系男性に萌え狂う編集部女性のお話」です。蜂飼さんは早稲田出身の私大系文系女子のようで、第1問とのギャップという意味では典型だと思います。

 過去問冊子を持っているかと思うのですが、とりあえず添付PDFの本文を読んでください。実際に解いて場数を踏んでおくことをお勧めします。

【問題文】2014年度東京大学第4問_蜂飼耳「馬の歯」

〔教材のポイント〕
 今回のポイントは「exの囲みかた(大づかみ⇄細かく)の調整」になります。男子ばかりの去年の中等部高3勢は混乱していましたが、君たちには内容的な難しさはほとんどないはずです。落ち着いて読み解いてください。

 筆者である耳(みみ)さん、ex1(「馬の歯」のことを話してくれた男性の話)についてだいぶ気になるご様子で、本文末文まで引きずってますね。ex2(詩集「オンディーヌ」)の引用も、この「馬の歯」についての胸のざわざわを考えたくて引き合いに出されたものです。自分の知らない世界に導いてくれる人、というのはいつの世も気になるものでしょう。それを文脈に即して2行記述するだけの問題です。

 今回難しいのは、ex1(理系男性)の話題の中に、彼がもたらした興味深いエピソードが約4つ、具体例中の下位分類として存在するので、その細かいエピソードの前後でも主張を拾って最終的にまとめなければいけないこと。

 そして同時に、「あの男性のことを知りたい」という気持ちに寄り添うex2(詩集「オンディーヌ」の引用)は、同じ作品(詩『虹』)を前半/後半と二分割されたかたちで引用されているということ。当然、exが導く主張の場所や読み取りかたがex1と2とでちょっと違っています。その違和感への慣れと、「exをすごく大きく掴んだあとで、自分で小分割する」という作業へのイメージトレーニングが、今回のミッションです。

 「蹄の『音』の化石」とかいう掴み所ゼロの結びの表現が、私より年上であるいい歳した大人が無知なままときめいてしまっている感じで個人的には読みづらい(鎌倉の海岸が鎌倉幕府の処刑場で、馬も棄てられていたことくらい文系なら知っときなさいよとも思ってしまう)し、これは題材的には「大学入学後にはほとんど読む機会のない非学術的な文章」であることに、出題された当時は高校教員としてすごく違和感を感じました。今述べているように「変則的な大/小のエピソード把握の能力」が求められているのとともに、ここにあるのは「地方から女子学生を東京大学に何とかして入れて、東京大学のローカル化を防ごう」というたいへん恣意的な国家戦略です。消費増税のタイミングでもありますので、昨年度の是枝裕和さんの採用とあわせて「生活苦を乗り越えるマイノリティ目線」が第4問に表れることはじゅうぶん予測しておくべきと思います。とくに無垢な男子勢、よくよく覚悟、注意しておいてください

〔読解の手順〕
 本文の構成が単純なので、exのグルーピングというよりは「同じexを共有する前後の形式段落、傍線部」を目視確認する作業が最初の手順になってしまいますが、もうそれだけで「問1(傍線部ア)」と「問4(傍線部エ)」が大きなex1に依拠する解答要素の似通った設問であることがわかります。もちろん問4はex2を通じた分析を通じて導かれるものなので、問3と同じくex2の影響下にあることは見逃せない事実です。でも、予備校や一般の参考書が教えなくても、文系で受かる受験生はこの辺を解いてくるだろうとは思います。

 問題は、ex1の下位構造の中にある問2(傍線部イ)にからむ複数の〈r〉の処理(「「本」のなかにまた「本」がある」)と、問2のその処理に引きずられてex2後半の導く主張を見落としがちな問3(傍線部ウ)の記述解答が、けっこう難しいということなのです。

 また同時に、二つしかないex1とex2の間に、どのような共通点があるかを考えることも重要です。ここは共通グループが作れるというよりは、ex1が導く命題「明るさ、光」を、ex2の引用された詩そのものが内容的に引き継ぐという連携、継承の関係になっています(ヒント言い過ぎてしまっているでしょうか)。これも地味に「内容のグルーピングでは済まない」という点で、多少変化球を投げ込まれていると言ってもよいのでしょうね。

 ということで、2組の皆さん、35分を目安にどうぞ実際に解いてみてください。次回の記事はさっさと解決編になります。

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