2011年度第1問「風景の中の環境哲学」①
PBL系の例題 復習対策して速解を目指そう

 前回予告した課題解決型の練習問題として、アクティブラーニングが前期教養の基軸として定まった時期である二〇一一年度の問題を挙げたいと思います。論理展開が正しく分かりやすい論説文なので、二〇一六年度よりもすっと読めるはずです。二〇一二年度の『意識は実在しない』(物心二元論)とともに、自分が読み解きの手順がスムーズにできているかどうかのベンチマークを取るための復習課題として扱うことをお勧めします。

 昨年度の飯田学年には、グーグルクラスルームを通じてALESS/ALESA立ち上げ前夜である二〇〇〇年代末に向けた数年度分を配信し、論拠の整理、〈r〉の処理からPBL的読み方について解説をしましたけど、いかんせんその時期の第1問は文章が硬くて難しいので、なかなか皆んなに分かりやすい解説にはなりませんでした。もちろん、二〇〇三年の〈霊の目〉にあった〈r〉の二重性や当時並みの文章の難易度さなどが出題されたことを考えると的中でもあったのですが、いきなりテキストベースで開講する講座としては難しかったと思います。

 皆さんには教材の配列を変え、高2までの連続性の維持と、および高3授業と並行するさいのロスの低減を目指しています。
 今年度演習していただいている二〇一二年は内容はまだ平易ながらも、物心二元論=r〈分解して栄養として摂取〉という一つのレトリックが違う次元の二つ(資源としての自然、規則や法の奴隷としての人間)を喩えているところが、二〇一九年「はざま」におけるr〈福音〉を使った文章の運びと似ています。二〇一三年「ランボーの詩の翻訳」はディスり文脈の整頓が読解のかなめでしたが、これは二〇〇二年、四年のあたりの文章の内容を分かりやすいかたちで出題している側面があります。

 過去十〜五年前を演習されているという点では単純に見えるかもしれませんが、いまは易しめの文体の中で読み解くべき技術をしっかりと習得できている、と思ってください。二〇一一年度は、おそらく最も分かりやすくまた最も直球な、まさにProblem/Project-Basedな論説文です。「だいたい読める」はもう卒業できるはずなのです。必ずここで習得しましょう。

2011年度第1問 桑子敏雄「風景の中の環境哲学」:
 ・PBL的な読解戦略の総復習(手順を完全に自分のものにしよう)

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【問題文、次ページ色分け】2011年度東京大学第1問「風景の中の環境哲学」

 二〇一六年度「反知性主義者たちの肖像」の私からの模範解答は参照していただけたでしょうか? 私自身も理性的に解法を分析して丁寧に解くまでは、筆者による皮肉嫌味や傲慢さに対する嫌悪感が強くて、筆者本人が各棒線部で述べている主張や論理を見落としていたところが多くありました。けれどもあの年の場合不思議なことに、筆者の頭の中はきちんと有効な論拠をレンガのように組み立てていて、設問ごとに書くべき論拠の展開方向、つながりがありました。

 筆者が感情面において自分たちを自己肯定しようと論敵に向かって緊張、敵対しているのは間違いないのですが、論的に勝ちたいからこそ「論理武装」として、本人が訴えるべき論理を正しく積み上げようとしていることも見逃してはいけません。こういったところに気が付くくらいの冷静さが、明確な目標を持って相手と話し合うさいに必要になるのではないでしょうか。

 今回のPDFを参照して、実際に解いてみてください。最初の本文にはexの番号と、ディスり構文への太字、〈r 比喩表現 〉への目印しか付けていません。後半のディスり構文に注目すれば、exのグループも大きく二つに分かれることがわかりますし、前回PBL型で重要だと述べた「筆者の立ち位置」「筆者が求めている目標」も、exの前後からおおよそのところはすぐ掴むことができます。また「筆者の立ち位置」「筆者が求めている目標」は〈r1〉〜〈r3〉を広い本文テーマだと考えて〈r〉の前後を見ると、そちらにもはっきりと述べられているのがわかるはずです。

 その後、今回添付したPDFの末尾4、5ページで答え合わせをしましょう。exのグルーピング(ex枠の色分けで見て取ってください)、筆者の立ち位置(二重線による囲み)についてマーカーを施した文章をPDFの末尾にすでに掲載していますので、最初の作業手順が自分自身のなかでスムーズにできたかを確かめてください。

 それから細かい論拠にもマーカーを施しています(白丸○または黒丸●)が、これら論拠を細かく読むよりも前に、議論は緑色のex枠の「都市計画の延長派」と、筆者が所属する青色のex枠「河川の本質維持派」で争っているんだということが自分で大づかみすることができているか、よく確認してください。PBL型文章の場合は、作業手順さえきちんとしていれば読解のさいに論拠を一つ一つ分析吟味する必要は必ずしもありません。この点を理解できるかどうかで、解答時間に大幅な差が出ます

 ここまでできれば、わかりやすい、主だった〈r〉の処理をして、それでもうまく掴めなかったときに論拠の詳細な読解をするのでしたね。今回は〈r1〉と〈r3〉が「川は人生」という比喩の喩え方で同じ、〈r2〉と〈r3〉が違う比喩ながら描写しようとしている対象が同じ、ということで、この〈r1〉〜〈r3〉全てが筆者の言いたい側の「河川の本質」を説明してくれます。この文章は親切なことに、〈r1〉〜〈r3〉が比喩のくせにしっかりと明確な論拠を示していますので、文章中のすべての論拠を分析しなくてもほとんど筆者の主張は読めてしまいます。

 ということで、皆さんには「この年度の問題をきちんと記述解答すること」を課題設定して演習してもらいたいと思います。ここについては2016年度の記事④を参照してください。同じグループ、類似の文脈のいくつかに同時に依って立つような完璧な説明を編み出していくことが重要だと述べましたが、そのうえでこれを正しい順序/展開で論理的につなげていくまでが仕事ですから、よく注意してやりましょう。このくらい易しめの文章になると、「何となく読める」というような予備校の標準解では全く受験生の上位には太刀打ちできないくらいに得点差が出てきます。授業でやった京都大学の「オウムガイ」の過去問(松浦寿輝『青天有月』)は理系の受験者集団の得点分布が異様に高かったという話を思い出してください。PBL型の文章なんて、基本さえわかればあとは「個々人の学者的能力の選抜レース」に過ぎなくなってしまうのです

 もう受験直前期になっていますので、様々な演習や課題、添削指導で忙しいことと思いますが、授業で扱ってきたハッタリ的なテクニックもついに完熟訓練の段階になってきました。過去問の半分くらいはもはや練習問題として皆さんが「何か突破できそう」という感触に変わってきていると思います。いかんせんブログ記事だけではその「感触」を「確信」にすることはできませんので、本気で演習してきちんとした手応えとして自分の学力にフィードバックして欲しいのです。

 次の記事ではまず文系随筆演習2「馬の歯」の解説を完成させて、そのあとこの2011年度の解説を完成させます。こちらもともとストックがありますので、今月中にはかならず模範解答を配信します。

 時間を見つけて頑張ってみてくださいね。

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