第二回東大オープンの直前ですね。二〇一六年度随筆『馬の歯』の解説記事に色分けをしながらさんざん推敲に苦しんだあとになって、複数の〈r〉を処理する単純な方法を思いつきました。いつも授業では黒板を書く過程でうやむやに教えていた「初見での〈r〉の実戦的な解き方」を今回は説明したいと思います。
PBL系の易しめの文体なので、賢い人達は全般に半分くらいはやすやすと取ってくるのでしょうけど、五つの小問全てで論拠の積み上げが要求されていること、論理展開に先行する伏線の〈r〉とその他の〈r〉を見分けることが後半の小問に関わっていることなどから、高得点は取りにくい問題に仕上がっていると思います。
中学以来レベルアップを続けている皆さんにとって、言語による論理力はどうしても即効性の低い、遅咲きになる分野です。文理ともに他の科目の記述でもまさに今鍛えられており、力が追いついてきているはずですので、ここで信じて伸ばしていってほしいと思います。
そのうえで今、ノウハウの点ではみんなを間違いなく上位者層に持ち上げてみせたいと思います。遅くなりましたが、チート技、ととのいました!
2011年度第1問 桑子敏雄「風景の中の環境哲学」②:
・複数の〈象徴表現〉が論理的な文章に出たときにどういう手順で処理をするか
今回は、「複数の〈象徴表現〉が論理的な文章に出たときにどういう手順で処理をするか?」というこれまでの総まとめについて、読解の戦略を改善しましたので説明します。
添付PDFの3ページを参照してください。〈r〉をどの段階でどう解いたら一番誤解と手間が少なくて済むか、作業の③番目に注目をしてください。
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〈New!〉【解説、マークアップ】2011年度東京大学第1問「風景の中の環境哲学」
①exのあら読みと 設定課題 の把握、結末からのディスり構文の曖昧さの解消
「河川整備の空間再編(河川を活かした都市の再構築)」であれば(設定
課題)、求められているのは新しい体験や発想が生まれ出る空間の創造性と、
空間に意味を与える独自の空間の履歴を育成する時間意識
②exのグループ分け(この文章では二つの立場が対立していることが分かればよい)
河川の体験の豊かさとは、(都市から河川に沿って続くさまざまな歩道(
ex1)を歩きながら)河川空間でそれぞれの人が知覚する風景の与える
多様な経験であり(ex2)=川の空間はそこを訪れる人々の経験の蓄積を
含み、自然の営みを含む独特の空間の履歴を持つ(ex7)竣工後の空間の
履歴を積み上げるという考え方︙身体空間の多様性を前提に置く筆者
←(ex6)→
竣工の段階で完成…都市空間を設計した事業主体による空間の捉え方
一握りの人々による不自然な(ex4)概念の押しつけ(ex3、5)
(であってはならないというのが筆者の立場)
③主なレトリックを使ってexの説明を試みる
=筆者の構想の中にあったストーリーを再構築
※最後の傍線部付近のレトリックまでここで見つけられているならば、ほ
とんどの場合一二〇字記述までここで得点できる目処が立つ。
最初の方のレトリック(〈r1〉)は後半で解きほぐされていることが
多いので、あとの方の〈r2〉〈r3〉で回収理解される伏線であれば、
気にとめる必要は無い。
(過去と未来とを結ぶ自然の川の相(ex4、5)で、都市設計の
事業主体の想定以外の体験(ex3)と発想をする可能性)
=〈r1 川は人生に喩えられる〉。
= 都市と違って河川は〈r2 庭園と同じように〉竣工を起点として空間の履歴
(ex2 個々の体験の多様性、訪れた人々それぞれの創造性)を育成し
ていく。その履歴に空間の意味がある。
本来は、〈r3 過去から流れてきて未来へと流れ去る水と同じように〉、
空間の蓄積された履歴とその人の経験の積み重ねとが交差する個々人に
固有の風景(ex7=空間的経験を積むための身体空間)でもある。
ゆえに、都市計画の設計者の概念の押しつけで河川の空間を再編しては
ならない。
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以上のようにすれば、本文の構造分析はほぼどのような文章でも同じように解けると思います。
この年度の前の記事では「今回の文章は複数の〈r〉がだいたい同じだから読むのはかんたん」として分析を避けてしまいましたが、ここでは正攻法を示しています。
初見の文章で必要なことは、傍線部文脈に含まれる〈r〉や本文後半にある「読み解かれるべき〈r言葉の〝あや〟〉」を使って、本文全体のexを一度正しく語ってみることです。
これによって、名実ともに「筆者が語ろうとしている〝ストーリー〟の構成」が(飛躍、歪曲も含めて)明らかになります。
ただし、すべての〈r〉を最初の方から説明しようとしないことが重要です。今回のように最初の〈r1 川は人生に喩えられる〉の周辺にディスり構文の否定されている側のexが並ぶような場合は、この前半のexと〈r〉は筆者によって後半で、読者にわかりやすくされているところを確認して関係づければよいのです。その意味でも、この表の作業①②の後にこの作業をすることの意義は大きいのです。
結論としては、〈r1〉が先行して示していたのは、本文末尾になってようやく出現する「本来的に、そもそも河川とはどのようにあるべきか(ex7)」という〈r3〉が曖昧に指し示していた内容だった、ということが分かれば、問5の一二〇字記述はもう解けたも同然です。
また、今回のこの作業工程には、exを①情報として単語を拾い読み②大まかに共通点を見比べる③筆者の脳内の筋道のパーツとして整理する、という三段階の作業に分けたことも特徴です。
「どこまで深くexの内容を読めばいいのか」迷っていた人は少なくないかと思いますが、この作業の流れで十分に行き詰まることなく解答ができるようになりました。
西大和の牧村学年を考えた場合、最近の私の記事について「一体何をわかりきったことを何度も書いているんだろう」と思ってくれる人が文理それぞれで5、6人くらい居てくれていると思います。十一月手前のこの時期だから言うんだけれど、その人たちは国語でそれだけ賢いんだから受かってくれなければ困ります。気を引き締めてしっかり合格してください。
でも、私が目指しているのは少人数の合格などではないのです。この読解戦略が実戦に投入できれば、文章後半のレトリックとディスり構文の解消を当てに行くことができますから、完答でなくても文系では120点中の+20点、理系では80点中の+10点は間違いなく上がります。論拠もあり、ディスり構文もあり、レトリックもあり、課題解決型だとかアクティブラーニングだとかもあり︙というなかで、こうした文章中のトラップを突破できるのは、学校の取組み自体が先進的であり、国語の指導が記述対策まで綿密である本当に一握りの学校に通う人たちだけです。私は西大和学園は数少ない〝それ〟になれると思って頑張ってきました。私自身の生活の基盤が足元から崩壊してしまったのは大変残念なことでしたが、それがゆえに夕方から自分の思う仕事を進め、ブログを開設して原稿が書ける身分で今年度を過ごすことができたのは瀕死の功名というやつでしょうかね。
今回説明した「最初の読解手順の習得」で、問題解決型の文章・ただ難渋な文章・〈象徴表現〉ばかりの文章がどんなに混ざりあって出題されても同じ手順でよみこめるようになったと思います。
次回は残った細かい論拠の処理をしながら各予備校の模範解答を検討し、理屈っぽい記述解答を作る際のポイントについて扱いたいと思います。