リクエストいただきました。〝前半難解、後半は07年度『読書について』と同様な感じ〟の、2010年度『ポスト・プライバシー』を予定から繰り上げて取り上げます。添付PDFを参照してもらえば分かりますが、「手順さえ間違えなければ」すぐに解けます。
2016年『反知性主義』と同様に、整序すべき後出しの論拠が、この年度の場合も我慢大会のようにずっと後になって出されている。よりにもよって今回は論拠②(条件分岐)と、それによるふた通りの場合の論拠①(定義)を読まねばならない、ということです。何も考えず段落分けしてたらたぶん読めません(読んだところで頭は働かないでしょう)。
でもみなさん、9月以降のこのブログ自体の論拠を整序してみてください。もう読み方は判っているはずです(2016年度『反知性主義者たちの肖像』の記事は必ず読んでください)。
ポイントは、〝初めて出くわした交差点の信号が「赤」だった時、急ぎ足のあなたが読むべき情報は何か?〟です。交差点は何叉路なのか歩道橋はあるのか、スクランブル交差点なのか通常の信号なのか、全く車は通っていないのかそれとも完全に渋滞で動いていないのか、はたまた赤のまま信号が壊れていないかとか、「止まる」にしても考慮すべき〝流れ〟はあるはずなのです。
〝流れ〟が見えたら、最初の取った瞬間的な態度・姿勢から自然と次の状態に移行するはずです。授業のさいにも論拠を信号機に喩えたことが度々ありましたが、この〝論拠を察知したあとの機敏な認識の変化〟が、論理的でありながら整っていない文章(時代の不可逆的な変化のため・筆者の理解力や説明力不足のため・単純に校正前の文章であるため等)を読むさいには非常に重要になります。
まぁ、講習も最終局面ですから、ちゃんと読んでいればもう負けません。
2010年度第1問 阪本俊生『ポスト・プライバシー』①【プチ解説】:
・〝論拠の流れが見えてから読む〟習慣を明確に身に着けよう
※良い答案を募集します(追記して採点します)。メールやコメント欄経由で送ってください
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【解説、マークアップ】2010年度東京大学第1問「ポスト・プライバシー」
【2010年度 全体の構成的な読み取り】
先日「12月中の記事にする」と予告していた2010年度『ポスト・プライバシー』が授業の演習で扱われているということで、全体の読解戦略だけでも早めに上げておこうと思い立って記事を書いています。
これは以前スタディサプリの柳生先生がNYGの進路講演会で扱っていた教材ですが憶えていますか? 論理力がないと解けないというお話でしたけれども、講演の尺のなかの説明だけでは「記号論理学による解法」が有効だなと感じることは残念ながらできませんでした。
もちろんこの教材も上の3学年の放課後特別講習で扱って来ているのですけれども、皆さんにはとにかくより多くの人に、より実戦的なかたちで解き方が定着してくれたらと思ってカリキュラムを組んでいるわけです。
教室で授業演習ができるのならば、2007年度『読書について』をきっちり多めの情報量で済ませてからバリバリ解きたいと思っていた教材ですが、いろいろ言っても仕方ない。さっそく解説しましょう。
このオンライン講座もロジカルシンキング、アクティブラーニング編に入り、終盤戦に突入しています。
ここまでの記事を読んで、〝論拠の整序をしたうえでのexと〈r〉のストーリー再構成〟のやり方について学習してもらえたでしょうか。最近アクセス数が少ない(カウンター上がって喜んでたらスパム書き込みを目論むロシアからの巡回botでションボリしたことがありました)ので、現代文困ってそうな人がいたら〝リメンバー・アキラ〟と告げてあげてくださいね。
今回の2010年度はこれまでに言及したとおり、2007年度よりは読みやすく設計された設問であると言ってよいと思います。
今回は本文中にレトリックらしいものがないのです。あるとすれば問5の一二〇字記述のさいに、本文出典の別の箇所から〈r データ化された「分身」=〝データ・ダブル〟〉という補足説明だか何だかわからない意味深な注釈があるだけです。しょせんたった一つだけのレトリックですから、淡々とexといっしょにあらすじのなかに組み入れるまでのことです。
また、〝レトリックじゃないR〟の話を学習したのを覚えていますか? 〝リファレンス〟を示す「R」のつもりで情報化社会か何かを扱った教材で提唱しました(分厚い「高校現代文1」の模試過去問でした)が、要するに連続した引用ex、グループなのが自明なex、筆者が傾倒している引用なのが自明な〝しつこいexの連鎖〟ですね。大学入試においてはこうした長々とした同一文献の引用はまれなので、〝rといえばレトリックの〈r〉〟でこのまま通してしまいますけど、「連鎖するexの一番最初と一番最後のあたりにある離れた命題どうしをつなげて、主張の内容を大局的につかむ」ということだけは明確に意識しておいてほしいと思います。
そういうわけで、いつもより手数はあきらかに少なくて済んでいます。ただし、今回は登場する〝論拠〟のほうが面倒くさい。論拠②「条件分岐」が本文を二分しているわけです(これは私のことを覚えている人ならば別に難しい内容ではないでしょう)が、その条件の変化に付随して論拠①「〝プライバシー〟の定義」がそれぞれで大きく変わる、しかも後半の条件分岐のもとでの「〝プライバシー〟定義」の中身がさすがにわかりにくい︙という〝理解の壁〟を乗り越える困難さが待ち受けています。
いわば〝論拠の整序をする平常心と発想の柔軟性を試すための出題〟と言っても過言ではないわけですが、でも正直なところ、二次試験の数学(文理共通の易しい問題)の場合分けと同程度のロジックでしかありません。皆さんがちゃんと二次対策を自分で書いて採点して復習して︙を行っていれば、別になんの問題もないのです。
PDFのこの箇所を見てください。
先ほど述べたように、論拠を整序しながらexと〈r〉であらすじを再構成するとこの画像のようになります。
大事なのは、このような場合分け(条件分岐)が〝初めから二本の分岐を表す全体図を見渡すような感じで〟自分のイメージのなかに浮かび上がるようにすることです。それが、本文中に場合分けが出てくる場合のポイント①です。
また、画像の中のグレー枠の注釈にも書いたとおり、文章で書かれた論拠の場合は後出しの論拠が全体的なゲームのルールを変えていってしまうので、後半の論拠を理解したあとに前半の論拠を従えることが必要になります。
つまり、「個人データがネットにアップされるのが当たり前」の観点から、まるで昭和か大正を見るかのような気持ちで「個人が自分のいいように体裁を取り繕う旧時代」を「今の時代以下の〝終わったもの〟」として扱ってあげるのです。これがポイント②になります。
すると、このテキスト本文は、最近のことを扱ったex5、6、8などに明らかなように、
「個人の人格」・「その人がどのような人か」(設定課題)について、
たかだか〝個人の履歴データ(ex4)〟からだけでも人格を読み取って評価するという「情報化社会の存在ありきの観点」から、
〝プライバシー〟という用語が定義し、指し示していた内容への反省をしようとしている―――というところまでは一瞬で到達してしまうのです。
「そんな、一瞬でなんてムリだよ」という人は、添付PDFの最初のページでディスり構文の解消地点を確認する練習をしてください。最初の段落で「しかし」と過去の状況を貶しておいて、次の段落から滔々(とうとう)と過去のプライバシー議論を語ってくるような古めかしい説明口調に付き合っている方が愚かなのです。過去をディスるだけの論拠があとに待ち構えていることは分かりきっているのですから、考え方の転換点と過去を貶すだけの説得力のある論拠や本文の核心となる主張の部分を先に見て取ることを考えましょう。
現在の視点で捉えさえすれば、〝private(当事者に関わる)〟という言葉の意味解釈が、個人の情報を知る方法が時代のなかで移り変わることで「本人が取りつくろう〝身体の周辺〟」から「本人が取りつくろう〝クラウドデータ領域〟〝アカウント内のデータ〟」に変わったという、ただそれだけのくだらない文章なのです。知らない人に知ってもらうにはバズらないと話にならないし、好きな人に見てもらうには多少盛らないと素敵に思ってもらえない。そういう見苦しさはかつては日頃のお化粧やお洒落、大人の前での立ち振舞いに集中していたのが、時代が変わって自分のアカウントのデータをこだわって拡充し、維持管理する方向に移行した―――こういってしまえばあまりにも単純な、悩むまでもない当然の時代の変化です。
これを難しくとらえてしまうのは、オチを知らない不安な状況で結論を自分でも確信していない筆者の半端なディスり文脈のなかの理屈のぬかるみをあぁでもないこうでもないと読んでいる生硬な生真面目さの問題です。発想の転換を、どうぞよろしくお願いします。
ところでこのような〝時代のゲームチェンジャー〟として、皆さんはどのようなものを思い浮かべるでしょうか。発電所を遠隔で爆破するドローン、巨大国家インドや中国の膨大な個々人の往来を個体識別する顔認証と歩き方の検知システム、クラウドデータベースから多言語の例文と関連のデータをリアルタイムで提示する次世代翻訳システム、「量子コンピューターを持っていないかぎり」改ざんされることのない電子通貨とその商取引、「社会の方向性が決まっているかぎり」忠実にある方向へ向けて学習し正当性を高めていく人工知能︙︙ SNSの運用の難しさ程度の身近な話題が出題されるのは、最後のセンター試験の新傾向問題くらいのものでしょう。もっと難しいものを想定しておくべきです。
なんせ『ポスト・プライバシー』が出題された2010年の2月の段階では、人々はほとんどスマホを持っていなかったし、ガラケーでウェブのSNSを扱っていた人もまれでした(だからこそ、東日本大震災ではまだ人間同士のネットワークで助け合う余地が残っていたのかもしれません)から、わりとテーマのコンセプト自体に対して皆さん自身が〝聞いたことがない〟〝考えもしなかった〟そんな内容の文章が出題されてもおかしくないと思います。「暴走する情報検索・管理システム、勝手に利潤を追究する道徳なき人工知能とそれを止められない人間の社会」と「過去の〝何か〟」との条件分岐くらいは、想定して時事問題を振り返っておいてもいいかもしれませんね。
講師業の定期考査が十二月第2週に近づくなかで、スケジュールだけは前倒ししてしまいました。センター試験対策が相対的には優先される時期にもなってきたところですので、「ちょっと遅くなってもいいよ」と思ってくれる人は、この文章の公開添削に付き合ってください(テキストデータで送ってください)。解答解説の記事に合わせて掲載し、添削したいと思います。私もなるべく多くの人が十二月の段階で「理屈のぬかるみ」から脱したところを見ておきたいと思います(難渋な文章へのロジカルシンキングというアプローチは、センター試験と無関係ではありません)ので、奮ってメール送信をよろしくお願いしたいと思います。
それではまた。
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