「本試験の文系第4問」2014年度の解決編です。添付したPDFですぐに構造把握できる難易度であるぶん「記述」作業を遂行するまでの戦略の質が争点となる出題となっています。
謎解き自体が多少手間なので、本題にさっそく入りますが、この演習課題の2014年度は、4つの設問の傍線部のすべてに〈象徴表現〉があるのに皆さんも気がついたかと思います。
複数のexをどう扱うかによって、根本的欠陥のある意味段落的把握の上を行く構造読解はできる。しかしながら、この課題文にも言及されているとおり、「言葉による問いとは〈遠くへ届く光〉」なのです。傍線部文脈が、その向き合う話題に対して、レトリックによって何処まで先を見据えた主張をしているかを、解答に加味していかねばならない。
昨年度の文理共通第1問で〈はざま〉の〈福音〉に泣かされた受験生も多いと思いますので、理科を受験する人もこのへんで「傍線部に〈r〉が出たときの解き方」をやっておいたほうがいいかもしれません。exの読み方のおさらいもしていますので、記事だけでも読んでおくことをおすすめします。
2014年度第4問 蜂飼 耳「馬の歯」:
・〈r〉を説明するということ
・ 中間表現としての〈r〉と指示対象としての(ex)
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先に述べたとおり、今回は〈r〉が絡み合う=〈レトリック・象徴表現〉の多重性の分析が争点です。「書きにくい」という印象はまったくもって正しいのですが、そこで当惑していては読解力が報われません。ここでしっかり前に踏み出しましょう。
〔(ex)と〈r〉の読み方のまとめ〕
まず、具体例のおさらいをしておきますと、
「具体例は前後の文脈を従えて意味段落の最小単位を形成する(以降「単位段落」と呼ぶ)」
「具体例同士の意味によるつながりが伏線を成す(=近傍性だけで大段落を区切らない)」
「話題ごとに傍線部をセットで解き、適宜具体化/一般化する
(三段図でいうと、中段から下/上段へ関連文脈の語で置き換える)」
ここまではいいですね。模試業者を追い抜いて合格するためのこの講座の基本的な戦略です。
次に、PBLなど探究的な論説においては、
「具体例から筆者が取り組む『解決課題(大前提の問題意識)』と『解決策』『敵対者』などが十分類推できる」
「単位段落の間をつなぐ論拠を見つけ、論理展開の流れを整序することで問題意識に沿った文脈の具体化/一般化ができる」
これが前回の2016年度『反知性主義たちの肖像』の記事で学習したところです。言葉にして見てみると、頭脳明晰な人の頭の中ではごくごく当然なことにすぎませんね。
PBLなど探究的な論説においては「筆者が周囲と衝突しながら論理をひねり出すまさにその過程」を文章として出題され、その場合は「筆者の書く苦しみに共感して読む」のか「課題を解決する意志と協調して読む」のかで印象がだいぶ変わってきます。大学(前期教養課程)のカリキュラム改革からすると、後者の読みが求められていると言えます。
さて、これらを踏まえた〈r レトリック・修辞法 比喩、言い過ぎなど意図的な表現技巧〉の読み方は、
「文中における〈レトリック〉は、筆者・作者によってテーマに通じる一般性を任意に与えられる」
「〈レトリック〉は論理を必要としないゆえに、感性を重んじた文章の中にテーマ間の対立構図を作るのに用いられることが多い」
「論理的に限定されているのでなければ、〈レトリック〉は具体例のグループ分けとともに文章の話題の構成の把握に用いることができる」
「論理的に限定されない〈レトリック〉の性質を使って、筆者にとって論証されていない内容への伏線、裏口が用意されていることもじゅうぶん考えられる」
「特に〈レトリック〉が何度も、もしくは複数で出現する場合、その文章表現としての意図から、筆者による論証や論理展開の枠組みよりも優先されると考えるほうが妥当である」
およそこのようなところだと思います。
〈r〉というのは、一言で言えば「ワイルドカード」ですね。出現数が1つだけならば他の要素による読解で文章を論理的に読み通すことも可能だと思いますが、2つ以上ならばまだ「〈レトリック〉によって主旨が制御されている文章」と認識したほうが正確なのかもしれません。複数の〈r〉が絡む文章といえば直近の2019年度入試『科学と非科学のはざまで』がまさにそれで、素数年による周期性から私が予想していたことはすでに高2の授業のさいにお伝えしたとおりです。
ついに受験学年の当事者として習得が求められる状況になりましたが、皆さんの方からも「上手い解き方への気づき」「対策不足の側面への懸念」などあれば、遠慮なくメールで送ってください。
〔2014年度『馬の歯』本文の大枠についての読解〕
それでは、実際に〈r〉を記述説明するプロセスをひさびさにやっておきましょう。
前回の記事で、問1と問4が「ex1において共通」、ただし、問4は「問3と共通してex2の影響下にある」と説明しました。
それは添付したPDFのexの二種類の色の枠でわかるはずです。ex1の青い枠の話が、ex2の緑の枠をまたいで、最終段落でまた言及されている(「松ぼっくり」、「馬の歯」)。細かいエピソードから少し離れて全体を見れば非常にわかりやすい。というか、これまでの私の授業や講習がなくても誰でもわかるくらいに分かりやすい構成です。
ただ、これで問1と問4が書き分けられるのか、というとそうでもないのです。よく読めばわかりますがex自体が内容的に連鎖していますし、それぞれの傍線部の〈r〉はその文脈から遠い方のex単位段落を指向したものになっています。
たった2行の記述であっても、傍線部自体が〈r〉を含み、そして具体例ex1の主張部がex2の中身と連動しているのでは、正直どうにもならないというか、諦めて深い内容まで説明する腹づもりをするしかありません。この割り切りができるかどうか――目先の論拠の渋滞を時に投げ捨てて、曖昧なレトリックに字数を割く度胸を持てるか否か――これが傍線部文脈にテーマ性をもたせるための大胆な判断の分かれ目になるわけです。
さて。それでは前回述べた問1と問4が「ex1において共通」、ただし、問4は「問3と共通してex2の影響下にある」という具体例との近さの問題はどこへ行くかというと、傍線部アとエが接する前後の文脈、コンテキストの部分です。どういうもの、状況に対して、そのレトリック=特殊な言い回しを述べあげている、ぶつけているかという、発言の向かう先。これが近接文脈のexによって示されているということになります。
だから一言でいうと、exを記述解答の描写の主語や説明の対象に据える文体にすればよいので、
問1は、近接文脈のex1(理系の男性に会えたことによる〈r 知りたいことのぼんやりとした明るさ〉)が、筆者自身の日常の問いに〈r ずぶりと〉=〈r 遠くまで届く光〉人生の追求として関わるということ、という流れとなり、
問4は、近接文脈のex2(吉原幸子の詩の言葉があらわす〈r 弱くても遠くまで届く光〉日常の生活における一つ一つの切実な問い)に対して、ex1の馬の歯や松ぼっくりという〈r 言葉の無い詩〉という形で〈r 筆者の日常の先を照らす光〉を手のひらに載せて私の前に現れた人がいる、という流れで解答すればよいのです。
実は問2、問3のためにもう少しレトリックの分析をしておいたほうがいいのですが、今回はとりあえず合格点を獲得するということで記事を区切りたいので、以下、標準的な解答を示しておきます。
[問1標準解答]初対面の人(ex1全般「理系の人」を含む)と話題を探す作業が、自分の日常生活に切実な・重みのある問いかけと探求(ex2全般(詩))を与えていくということ。
傍線部の「ずぶりと」という極言(踏み込んだ言い回し)が、ex2(愛、罪、傷を歌う吉原幸子氏の詩、苛立ちが流れる言葉と、光のさらにその先の追求への意欲)を示唆していることは明確です。問1からしてそこそこ踏み込んで記述することになります。
[問4標準解答](日常で対話する中には(ex1「理系の人」を他の取材相手よりも特別視して))、
口からこぼれる言葉(:ex1の後の文脈の語句)や話題のそれぞれ(ex1「理系の人」の下位分類のエピソードたち)だけで、吉原氏の詩のように筆者の日常の先へと追求させてくれる問いを与えて惹きつけてやまない人との出会いもあるということ。
この問4のほうでは、ex1の後の文脈の語句に述べられている
「馬の歯が遠い浜へ駆けていく蹄の一音一音︙はじめて教えられたことだけが帯びるぼんやりとした明るさ」
であるそれそのものが、筆者にとって、
ex2の前後の文脈に述べられている
その「曖昧な物事に輪郭を与えようと一歩踏み出すことから︙こぼれる光の一歩は、消えていく光」(=問3傍線部ウ)
であるそれがさらに、
「一枚のまぶしい絵 どこかに大きな間違い それがどこなのかどうしても︙確かめられないことで埋もれている︙鮮度の高い苛立ち」であり、「問いによって、あらゆるものに近づく︙問いとは、もっとも遠くへ届く光なのだろう」
という気付きと〈明るさ、光〉というキーワードによって連動している、まさにそのレトリック上の継承関係を設問で問われているということになります。
論拠が込み入ったとき三段図をどう書くかは先日の記事(第1問「反知性主義たちの肖像」)で言及しましたが、この年度においては、三段図の上下両サイドへの展開(半端な表現をテーマ的一般性と指示対象的具体性へ関連付ける)は当然として、中間的表現である傍線部と傍線部の相互関係について〈r〉を通して考えることが最終段階としては求められています。問2にある〈レトリック〉:〈本〉の中の〈本〉が、後半の「(言葉のある)詩」つまりex2(『オンディーヌ』「虹」の一節)を引用させ、そしてそれが文章の最後のレトリック〈「言葉のない詩」を読む人〉を紡ぎ出す―――この辺を明確に比喩の解説として説明できるのが理想なのですが、とりあえずこの記事はここで区切ります。
これまでの授業においては、〈r〉について「読むための示唆」しか伝えてこなかった、ということを記事を書きながら痛感しています。受験に向けて書く練習はもうこのあたりでやるしかありません。問2、問3に向けて、まずレトリックを説明するためのフォーマットを身につけることをどうかよろしくお願いします。その上で次回、より精度の高い記述を目指していきましょう。
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