昨年度、お茶の水女子大の解説(解き方の概要)です。
〝自分の言葉で書けているか〟という言葉の意味をそのまま受け取って合格する受験生はいないと思いますけど、大学が公開する解答指針を本文と照らし合わせ、要求される分析の水準をきちんと見極めておきましょう。
【直前対策演習】
2019年度お茶の水女子大学第1問
船木亨『現代思想講義―――人間の終焉と近未来社会のゆくえ』②【解答編】:
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【解説、マークアップ】2019年度お茶の水女子大学第1問「現代思想講義」
【解答指針】お茶の水女子大学 解答指針(公式)
京大クラスにも宛てたメッセージとしては、今年度最後の記事です。
センターの結果を受け、うまく行かなかった人も、得点が良かった人も、気持ちを切り替えて学習しましょう。一次と二次の得点比率をよく考えて、数学の大問ごとの完成度や、国語の論述全体としての得点率、それから理科や社会の合格水準での全範囲網羅を目指すことが重要です。というか、そうするしかない。
たくさんの先生が「最後は国語だ」とよく責任を丸投げしたかのようなコメントをこの時期に口にしてしまうのは、解答の妥当性を客観視しながらトレーニングすること/させることが、言語活動としていかに難しいことであるかを意味しているのだと思います。
そういう意味では、まさにこの年度の本文が述べている「社会の中に〈わたし〉が居ることの自覚は、言語によるものでしかありえない」という言葉を支持する材料となっていると言えるでしょう。
ただ、それは完全解ではないのです。考えを推し進めるときに、文章を読み書きするといった言語のはたらきが全てとなるわけではないということ、違う〈わたし〉つまり実在の他者と関わるのであれば言語を超えた理解のプロセスが当然起こっているということ、そして言語の関与を否定しないにせよ、認知の枠組み自体に関わる技能が現代文にも現に存在するということあたりは、ここまで6年間の国語や現代文の授業のなかでも実践してきたことです。
必死になったときに、戦う相手の内面や自我について予測して行動できる人はまれなことからもわかるとおり、この文章が正しいと言えるほど私たちは相手の内面に自我があることを起点にモノを考えているわけでないし、筆者の言うようにいちいち言語化の作業を通さなければ考えられないというほどには、君たちは言語先行の小難しくトロい人たちでもないでしょう。〝現代思想講義〟というタイトルや内容のとっつきにくさに惑わされることなく、筆者の論説の組み立て(整然としているとも限らないし、正しい手続きで論じているとも、正しいことを言っているとも限らない)を自分が今持つ技術と知性で切り分け、乗り切っていきましょう。
【〝自分の言葉でまとめる〟の意味】
これは自由に書いてかまわないという意味ではもちろんなくて、本文の内容をまとめるという作業は、解答する本人の言語能力に期待するほかないということです。高次の言語活動というものは、学習指導要領のなかでごく数名でも実力者が輩出されたら嬉しいなとされているものでしかなくて、教科学習の範囲内で学校が教えられるものではないからです。オリンピック選手を養成するために体育の先生が生徒を教えているわけではないけれども、体育大学は選手になれる人材を探している。〝自由演技〟〝自由記述〟というのは、そうした世界の〝建前(タテマエ)〟を示す言葉だと思ってください。
そこに至る技術をあえて教えようとするのが批判的な読解のスキーム(タケトミの〝読まない現代文〟)であったわけですが、いまお願いしたいのは、京都大学の4〜6行の設問や阪大の二百字説明、もちろん東大百二十字の設問など長文記述形式の大学のためにこれまで培ってきた読解戦略が、今回のような議論・検討の余地を残した論説文の難しさに出会ったときにどのくらい適合しているのか、皆さん自身で最終調整をしてもらいたいということです。
【設問どうしのかかわり合い】
二次対策期間の記事は既習の内容を省くことがありますが、どうぞ了承してください。学術的な文章もPBL的な文章に含まれるので、PBL的文章を包括した入試水準の論説文についての下読みの手順に則って手際よく読みましょう。受験生に自身の考えを述べさせる小論文的な側面をもっているから、このお茶大の問題は、記述させやすいように規格化された京都大の問題よりも複雑ですし、伏線を見抜くことに特化された東京大の問題よりも論の組み立てに難があります。むしろ両大学よりも難易度が高い文章が出題されているととらえるべきではないかと思います。素材を提供してくれたaさんにはこの場でお礼を述べておきたいと思います。
まず、PBL的な読み方の流れのおさらいです。
手順①
exの前後から設定課題を読み取る
手順②
exの大まかな読み取りとディスり文脈の解消から話の構成(伏線の存在)を読む
手順③
論理の展開の方向性を整序してから記述の解答に取り掛かる(話の構成≠論理の展開)
以上のことを下読みとしてざっと行いましょう。
この文章の場合、
手順①→デカルトへの言及が序盤中盤終盤の三箇所にあり、デカルトへの疑問の解決が「話の構成」になっていること、
手順②→ex2以降の具体例とほかの思想家や哲学者の引用から、デカルトの有名な発言「我思う故に我あり(ex1)」の前提条件となるもの(最終2段落の〝したがって〟にいたるまでの理屈=〈r〈わたし〉という割れた鏡〉)を、間接的に導き出していること、
手順③→そしてそのうえで、論拠の流れを整序するとデカルト自身の主張への論証は何一つ行っていないということ
というような、前回記事で述べたような概略をつかむことができます。
そのうえで小問を眺めていくと、
問1︙最初の問題提起(ex1デカルトに関連、ディスり文脈付き)がどこで一応の決着を見ているかを掴ませる問題
(次のディスり文脈(=問2の範囲)が始まる直前で指定字数どおりの語句が求められている※1)
問2︙問1の次のディスり文脈の、ディスられる側の説明をする問題
(ex4幼児の言語世界=〈r1・r4ただ一つの世界〉のファンタジー)の内容が、現実に現れる他者の存在〈r3クザーヌスの言う「数多くの〈わたし〉」〉によって〈r4自己崩壊、砕け散る〉)
問3︙問2と同じ言及範囲「ex4(幼児の言語世界)におけるファンタジー崩壊」の中の論拠をまとめる問題
問4︙3つ目のディスり文脈の、ディスられる側の説明と、代わりに主張される「本質」の説明をする問題
(ex7ヒュームの経験論哲学において経験されるべきものは〈r5自分と世界の未分化(r1)を破壊する(r4)ex5他人という暴力〉の存在であって、他者の行為から事後的に知る意志などではない)※2
問5︙傍線部⑤(最後のディスり文脈)で、〝完結した理性的な自我〟を貶す代わりに主張される「自我」=筆者の述べてきた〈わたし〉全てのまとめ ※3
問6︙問5で〝完結した理性的な自我〟を否定するに至った論拠=「他人の自我が情動の始原、認識の原因になる」についての、具体化と受験者なりの感想を書く
ここでは詳しい説明は省きますが、右に挙げた基本的な解答指針を自分で考える時間を取れば、〝複数の設問をセットで解く作業〟を自然と兼ねることができるかと思いますので、本番の問題を読み解く最初の20分くらいでしっかり意志をもって分析してください。
この大学の場合、設問の誘導指示が細かすぎて自分の考えが妨げられると感じる人も多いかと思います。ディスり構文についての知識と、ex1―(ex4)―ex7に3度出てくるデカルトによる伏線が見えているかぎりは、これまでに扱った授業のディスコースマーカーで処理ができますし、なおかつ4行百二十字程度の解答要素くらいは、あっけなく拾ってこられますから、先にその見通しを持ってから、それに該当する設問を選んでいくくらいのつもりがいいと思います。
後述の大学による解答指針からすると、だいたい大きく二つのグループ要素を記述するように指示がなされていますね。ということは作題者はその関わり合いについての詳述を求めるものであるため、二つのグループの関係性を本文の見通しも含めてうまく書けた人は見通しの悪い人の最低でも4〜5割増し、8割5分くらいの得点ができるでしょう。
【解答要素にあたるキーワードや言い回しの作り方】
京大、阪大受験の皆さんや、東大文系第4問を解く皆さんは、こうした解答要素のカウントとともに、[本文冒頭のディスり構文]と、[解決する本文後半、結論のディスり構文]とを補助線で結ぶことによって、〝複数の意味段落から文章全体に通底するキーワードや言い回しを抽出もしくは生成することができる〟ことをきちんと確認しましょう。このブログを通読してくれた皆さんには随筆の演習あたりですでに伝わったことではあるのですが、「ややこしくて分からん」とブログの個々の記事を読んでいない人もいるかと思います。全部読む必要はありませんが、ここでいう〝主語述語目的語その理由が完備されたキーワードキーフレーズ〟を作るためには、当然ながら本文のスタート、ゴール両サイドの言葉づかいを視野に入れ、より明快な方向へと論旨を解明していく流れの転換点を全体のなかで見る必要があります。そうした本文ならではのわかりやすさを自分の答案のなかで再現していく作業が、長文記述形式の出題を配点の7,8割すなわち難問の場合は他人の約2倍の得点、という常人離れした得点をするための大切なポイントです。
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