場合分けを語るなかで見えてくる前提条件

 
③ロジカルシンキング
場合分けを語るなかで見えてくる前提条件
 ロジカルシンキング、アクティブラーニング、課題解決型の文章において、本文終盤の読み取り全般的な記述問題の仕上がりに強烈な得点格差をもたらす〝後出しの前提条件〟についての説明です。読者と共有された課題設定・問題意識の確認のしかたと併せて、必ず読んでください。

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 集合論・ベン図でいえば、この問題は〝元(げん)〟の問題、全体集合の問題ということができると思います。記号や集合によって包含関係を表すと、一番大きな集合を表す部分が本文のあとの方になって説明されることがあるということです。

 日本語に限らず、言語による論理は全体の関係図を示すのに時間がかかります。もともと個々の文脈がそれぞれの命題についての宣言や説明であるかぎりは、これは避けられないことです。それが、「全体の関係性を一望のもとにおく」ことを前提とする、記号による論理学との大きな違いとなって現れます。
 解決策を一言で言えば、すべての前提条件となる論拠を、本文前半で述べられた命題・主張にも関わるように〝脳内の論理関係図〟をアップデートするということになります。これがうまくできれば、大幅な得点差につながることは間違いありません。

 これについては、演習して自分の記述解答を点検していく作業ですから、先に挙げた二〇一六年度や、二〇一〇年度の記事を読みながら丁寧に解答を作ってみてください。これは「戦略まとめ」の別の項目「読者と共有された課題設定・問題意識の確認のしかた」とともに、ちょっと気をつければできるようになることですから、数学の大問の証明・解答作業と同じように、論理的にまっとうに漏れなく記述解答に記していくように心がけてもらいたいと思います。

 ただ、出題パターンを俯瞰するこの記事としては、もう少し違う角度からこの出題の意味を考えてみたいと思うのです。
 それは、なぜ筆者はあとになって全体の前提条件を説明し始めたのか?という観点の重要性です。

 この問いについては、各年度の問題演習を行ったあとでないと理解ができない可能性が高いのです(だから頑張ってやってくださいね)けれども、一言でその答えを言うならば、「その前提条件が一般的に言ってもほとんど顧みられない盲点になっていることへの指摘を兼ねているから」ということになるでしょうか。
 つまり、論理〝展開〟という言語による論理的な説明に特有の〝新情報〟として、その論拠の重要性・論理的上位性を強調しているというような説明になると思います。

 最も高位・高い次元のメタ認知としての前提条件が、論述の最後の方に置かれることがあるということを、論拠の説明の一つのあり方としてあらかじめ覚えておいてもらえたら、このパターンの出題に対して深い理解ができるのではないでしょうか。裏を返せば、わたしたちは数学や物理化学の大問を「あらかじめ完全に解き切れる各論」として与えられることに慣れすぎている、という言い方もできるでしょう。
 受験における理数系の大問は、きちんと説明してし尽くせるように細かい前提条件が冒頭に列記されているけれども、実際にその分野を研究するうえでは、最初に設定した条件設定ではすべてを語り尽くせないのが普通であり、それを解決する突破口こそが、新たな理論的地平を見せてくれるというところと、この〝論説文における前提条件の後出し問題〟とは対応しているのではないか。そのように私は考えます。

 「そんなこといわずにさぁ、結論から先に言えよ」みたいに考えることも、ある意味正しいと思いますけど、ロジカルシンキングや課題解決学習においては、一つの気づきから次の課題を見つけていくという論理の積み上げの主体的なプロセスが重要になるわけです。それは大学院大学の運営が〝大学院〟主体になった構造改革後の日本において、ちゃんと自分で調べて自分で考えて自分で追究していく人材を青田買いするための非常に重要な選抜の観点となっています。
 市井の現代思想的テーマ理解・博識どまりのテーマ学習の、その先に自分で進んでいける人材を、あえて論理的に未熟なテキストを出典にして選抜している現実について正しく理解して、現行の〝理系三問・文系四問〟の大問構成で高得点を上げてもらえたらうれしいです。


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